最近、国際政治への関心が強くなっていて、色々記事を読み漁っているのだが。
アラブ研究者の池内恵氏による『ロシアの軍事介入による「シリアをめぐる闘争」の激化』の分析まとめを読んで、素人でも分かりやすく簡潔だったので、混迷のシリア情勢とシリアを舞台とした国際政治闘争の現状を少しでも理解するために、自分なりに整理・要約してみた。

【寄稿】『中東協力センターニュース』に四半期に一度の中東分析まとめを


⚫️シリアとは
シリア・アラブ共和国は、中東と西アジアの共和制国家で、現政権は、シーア派に近しいアラウィー派のアサド大統領である。
人口は2,200万人。人種的にはアラブ人が9割で、他にクルド人やトルコ人、アルメニア人、ギリシア人などがいる。北西部のアレッポは人種のるつぼで、南部の首都ダマスカスはスンニ派アラブ人がほとんど。
宗教は、スンニ派が7割であり、政権を担うアラウィー派は少数派である。
国際関係は、トルコ・イスラエル・レバノンとは領土問題も抱え敵対的、スンニ派のサウジアラビアなどの湾岸産油国とも敵対的、ロシアとシーア派国家のイランは友好的、米国からはテロ国家認定を受けており経済制裁中で在シリア大使も帰国させている。
日本とは、国家間の関係が薄く、元々イスラム社会とも縁が強くないこともあり、中東の中でも認知度は低い。

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⚫️中東におけるシリアの地政学的意味
シリアは経済や資源は中東でもさほど大きくないが、北西部が地中海に面していて中東の地域大国諸国の真ん中にあって地政学的に重要な位置にあるため、中東の地域大国(イラン・トルコ・サウジなど)や域外の超大国(米国とロシア)の利益がせめぎ合う国際政治闘争の場と化している。


⚫️シリア騒乱の始まり
シリア騒乱は、アサド政権の圧制や弾圧に対する2011年1月26日の小規模な抗議行動に端を発している。
抗議行動に対し、シリア当局が強権を発動し多数を逮捕したため、抗議行動が激化。全国的にデモが広がり、その後治安部隊とデモ参加者の間で衝突が頻繁に発生し、シリア国民は暴力をもって弾圧され続けた。
2011年中に国連やアラブ連盟による調停が入るも上手くいかず、その後もアサド政権の弾圧と反体制派との衝突はエスカレートし続け、国内と周辺国から武装勢力が色々できたり入ってきたりして全国的な騒乱に発展し現在に至る。
騒乱では、国民2,200万人のうち、25万人が死亡、400万人以上が国外難民化、700万人以上が国内難民化、と国民の半数以上が家を失い難民化している。


⚫️シリア国内の各勢力の状況
シリア国内の状況は、アサド政権が国民への弾圧や虐殺によって国家としての正当性を大きく失っており、元々国家としてのアイデンティティが弱かったこともあって、国家が曖昧になってきているのが実情。
国外難民の多くは、アサド政権の弾圧が原因と言われている。
そこに複数の反体制派の武装勢力(自由シリア軍・アル=ヌスラ戦線・征服軍など)が複数混在し、さらには国家横断的な過激派武装勢力ISIL(イスラム国)と、北部のクルド人勢力が加わって全国的に戦闘を繰り広げており、四つ巴どころではなく混沌と化している。
アサド政権と主に戦っているのは、反体制派の諸武装勢力であり、ISILとはあまり戦闘になっていない。
シリア東部と中部のほぼ全域をISILが支配している状況で、アサド政権は北西部を除く西側1/3ほどで、反体制派は内陸の北西部の一部、クルド人勢力は北部に勢力を張っている。

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橙:アサド政権
黒:ISIL(イスラム国)
緑:自由シリア軍(FSA)
黄:クルド人勢力


⚫️シリアへ介入する外部勢力
シリアへ介入している外部勢力は、主な国で、アサド政権にロシアとイラン、反体制派の自由シリア軍に米国とヨルダン、同じく反体制派の征服軍にサウジなどの湾岸産油国、ISILは全方位的に敵対的、さらにトルコはアサド政権と北部のクルド人勢力に敵対的、米国とロシアの対立、イラン(シーア派)とサウジなどスンニ派諸国とが対立関係にあり、シリアを舞台に中東の地域大国と域外の超大国が国際政治闘争を繰り広げている。

シリアでの戦闘の状況は、アサド政権と対峙しているのは、主に反体制派の自由シリア軍などで、ISIL(イスラム国)は直接戦闘はあまりしていない。
なので、アサド政権を支援するロシアは、必然的にISILより反体制派の掃討を優先。それにより弱体化した反体制派がISILへ合流する可能性も指摘されている。


⚫️ロシアのシリア軍事介入の目的
ロシアのシリア軍事介入の目的は、主に中東と地中海でのロシアの軍事プレゼンスの向上とされている。シリアを舞台に、米国主導の国際秩序に対してのロシアの挑戦、かつての超大国としての名乗り、の意味もあるとの指摘もある。
具体的には、シリア北西部で地中海に面する都市ラタキアを抑えることでシリアおよび地中海での橋頭堡とし、アサド政権を支援することでシリアへの影響力を確保する狙いがあると思われる。
現時点で、米国・トルコ・サウジなどのスンニ派諸国が求めるアサド退陣には反対しているが、騒乱を終結させての後継政権にロシアの影響力を確保できれば、アサド政権には拘らないとの見方もある。


⚫️米国のシリアに対する立場
シリアに対する米国の立場は主に3つ。

1.中東におけるロシアの台頭と米国の衰退への対応のため、明確な軍事的対峙を求める立場。ジョン・マケインなどの共和党保守派やヒラリー・クリントンなどの民主党リベラル・タカ派がこの立場。
2.ロシアに協調してアサド政権を支援し、ISIL打倒を優先する立場。
3.ロシアを生暖かく見守って静観する立場。オバマ政権がこの立場。。

このうち、2のロシアに協調してアサド政権を支援する方針は、アサド政権に敵対的なトルコ・サウジなどのスンニ派諸国の離反を招きかねないので、米国が選択することは考えにくい。
現状では、オバマ政権は3の静観する立場だが、1の強硬路線の考えも強くなってきているため、今後強硬路線に転じる可能性もある。
キーとなるのは、ロシアの軍事プレゼンス拡大が軍事的・経済的に持続できるかどうかで、もし持続できるのであれば、ロシアの中東での影響力は大きく増し、反対に米国の威信は大きく低下するため、米国はロシアと協調するか軍事的に対峙するかの二択を迫られることになる。
また、来年の次期大統領は、今のところ民主党のヒラリー・クリントンが有力なこともあり、シリアを舞台に米国がロシアと軍事的に対峙する方向になる可能性はそれなりにあると考えられる。


⚫️今後どうやって騒乱を終結させるのか
致命的なのはアサド政権に代わる政治的な勢力が見当たらないことで、割と詰んでいる状況。
基本的には、地上軍を投入してISILを打倒し、アサド政権と反体制派で話の分かる勢力をまとめて和解させ、後継政権の目処が付いたところで、アサドに穏便に退場してもらう形、とされる。
地上軍の投入は、米国はアフガニスタンでの失敗を踏まえて投入には及び腰で、ロシアが投入するかどうかが取り沙汰されている。
もっとも、ロシアが地上軍を投入した場合でも、ISILやその他の武装勢力は非常に手強く、かつてのチェチェンやアフガニスタンのように泥沼にハマる可能性も高いと見られている。
その場合、ロシアへの憎悪が募ってチェチェン側に飛び火することもあり得る。

と言うか、シリア騒乱は終結できるのだろうか。各勢力が殺し合いに疲れるまで何年も続きそうな気も。。。