蠅の王 -Lord of the Flies-

ウェブと営業と三行日記。

タグ:教育

奨学金問題について、前提や制約条件を整理した上で、問題点や改善案を考えてみた。
改善案の考えに関しては、あくまでも未来の話であって現在の滞納者を救う案ではない。
また、返済不要の奨学金を得られるほどには優秀でない「返済必須の奨学金を利用する一般の人」を想定している。

なお、奨学金制度そのものは、多くの若者に機会を与えてきた仕組みだと思っている。大学生の半分は利用しており、私もその一人だった。
だが、現状で約7%もの若者が信用情報に傷が付く3ヶ月以上の滞納者となり、人生が早くも詰んでいる状況を看過してよいとは思わない。自己責任と言えばそれまでであるが、通常奨学金を受ける判断は親の影響が強いだろうし、本人が決めたとしても「未成年の高校生」の判断の甘さをもって、早々に人生が詰むリスクを負わせていいものだろうか。

よって、奨学金制度の最大の問題は、判断の甘さを誘発する「借り手側の理解の欠如と選択肢への無知」にあると考えている。


●前提
・人は、お金や能力や機会において平等ではない。完全に平等にはなれないし、平等にできない。
→お金に恵まれず、能力にも恵まれなかった人は、恵まれた人ほどの機会は得られない。

・大卒でないと職の選択肢は少なく、収入を多く得られる可能性は低い。
→非大卒は生活が苦しくなる可能性が高く、かつその認識が親の世代に浸透している。

・人にとって、「食うためだけの仕事」と「生きるための仕事」は別である。
そして皆、人間らしく「生きるための仕事」をしたいと考えている。
→よく言われる「職を選ばなければ〜」というのは、一生我慢して生きろ、と同義で残酷な言葉)

・大卒後に職が得られず奨学金が払えなくなると、3ヶ月滞納で信用情報にも傷が付き、割と人生が詰む。
→奨学金の3ヶ月以上滞納者率は、今のところ約7%(約20万人)程度で、若者の失業率と同じくらい。

※ 参照: 平成22年奨学金返還回収状況について(PDFファイル)
(7ページ目の「6. 3ヶ月以上延滞債権の状況」)


●制約条件
・大卒者全て満たせるほどの職は日本には無いし、今後も無い。
・今後は、年を経ても給与が上がるとは限らないし、ずっと貰えるとも限らない。

※ 参照: データえっせい - 22歳の危機(大卒無業者数の推移)
→2011年大卒者約55万人のうち、無業者は約12万人の21.8%。
これはあくまでも全体の数値なので、中堅校や下位校の大卒者であれば、無業者率はさらに高いだろう。


●問題点の整理
①大体が、親が決めて借金をして、将来子ども本人が払う形になっており、リスク想定が甘い無自覚な借金となっている。つまり、借り手側の理解度が非常に低い。
→そして、大抵の場合、「恵まれていない」人ほど理解度は低いと想定され、貧困と同じで自己責任では片付けられないと考える。

②大卒→正規社員ルート以外の選択肢を知らないため、親は子どもの可能性を信じて、リスクが大きくてもこのルートに賭けてしまう。
→子どもの将来の生活がずっと苦しいと思われる高卒ルートより、まだ可能性がある大卒ルートに賭けたいと考えてしまう。

③親が返しきれないほどの奨学金を借りてしまっている場合がある。
→例えば、利息込みで480万円だと月2万円×20年となり、一般の家計的には結構キツいレベル。ましてや、若者に負わせる借金の額としては、借りるべきではないという意味で正気の沙汰とは思えない。


●身も蓋もない結論
無理な借金はすべきではない(させるべきではない) = 無理な進学はしない
つまり、お金に恵まれず能力にも恵まれず、高校までに学力で実績を出せていなければ、大卒ルート以外を有力な選択肢として検討した方がよい。
(大卒であっても、下位校であれば就職できない可能性はかなり高いと思われるので、当然リスクは高い)


●借り手側に無理な借金をさせない案について(行政レベル)
①借り手側の理解度向上
→返済が必要な「奨学金」は、「大学ローン」などと借金と分かる名称にする。
→リスクについての説明の機会と理解を高める機会を設ける。
(高校内や市区町村の相談機関や金融機関、CMやニュース特集といった告知など)
→市区町村による一部補助制度や民間企業による返済不要の奨学金制度もあるので、そういった個別の制度の認知を高める。
(高校内や市区町村の相談機関、ニュース特集といった告知など)

※ 参照: 朝日奨学金(朝日新聞社)毎日育英会(毎日新聞社)
→例えば、新聞社が新聞配達業務を条件に「返済不要の奨学金制度」を用意していたりする。
(学費・生活費稼ぎのバイトだけではなかったとは知らなかった)

②子どもの将来の選択肢への無知
→大卒ルート以外の選択肢についての説明の機会と理解を高める機会を設ける。
(高校内や市区町村の相談機関、CMやニュース特集といった告知、ドラマ化とか? など)
→大卒ルート以外の就職ルートやキャリアルートを整備する。
→大卒ルート以外の就職の機会を提供+認知を高める。
(既に実施例は多いが、高3に対する早い段階での高卒向け就職説明会など)
→大卒ルート以外のキャリアプラン例の提示+認知を高める
(高3の段階では遅くて、中学の段階で手に職が付くような高校を選ぶべきかもしれない)

③親が返せないほどの奨学金の制限
→親が返せないほどの借金をする必要がある場合は、そもそも奨学金を認めてはいけないのではないか。
(現状では貸す側に審査能力がないのが問題だが、消費者金融のノウハウとか活かせないのだろうか、と素人的に思ったり)



(余談)
現在の滞納者の人たちに対しては、一体どうするのがいいのか、私の中で答えはまだ出ていない。完全に失業問題になっているし。自助努力のサポートでどうにかするにしても、仕事がない。
何かしらのセーフティーネットがあった方がいいと思うのだが……。

「デジタル教科書」話がまた一部で盛り上がっているけど、デジタルへ向かうことを否定する人はあまりいないと思うが、そもそもの目的とかメリットとかってなんだっけなー、と思いながら、つらつらとツイートしたものをまとめてみる。

デジタル教科書


デジタル教科書にサンセイのハンタイなのだ - 中村 伊知哉
"実証は必要だが、実証の成果を「待って」いたら100年たっても導入はできない。社会全般も、子どもの暮らしも、海外の教育もみなITを利用する中で、導入に反対するかたには「導入しないメリット」を実証する責任が生じていると思う"


まず「教育の情報化」において重要なことは、「デジタル教科書」というツールではなく、「目的設定」「制約条件の確認」「目標効果の決定」「現実的かつ効果的な手法の検討」あたりであって、前提部分を理解しなければ始まらないだろう。


●「教育の情報化ビジョン」の目的とは
と言う訳で、文科省の「教育の情報化ビジョン」を読むと主な目的設定は、

1.情報活用能力の育成
2.情報通信技術を効果的に活用した分かりやすい授業の実現など
3.校務の情報化による校務負担の軽減

の3つ。

「デジタル教科書」はこのうち「2」に該当し、さらに大きく「指導者用」「学習者用」がある。「1」は教科書とは別の話と言うか新しい教育項目で、「3」は業務のシステム化の話。

で、「学習者用デジタル教科書」の目的設定は、「子どもたち一人一人の学習ニーズに柔軟に対応でき、学習履歴 の把握・共有等を可能とすること」とある。
印象としては、「デジタル教科書」で「今できていないことをやろうとしていて、理想がすごく高い」ように思える。
と言うよりは、曖昧な「デジタル教科書」の理想のイメージが先行しちゃっている感じに見えるかな。


●新しい運用のシステムを導入するのに必要なこと
今できていないことをやろうとして、「デジタル教科書」という「新しい運用」を前提としたシステムを導入しようとするのは、よほど現場サイドが混乱しないような導入方法と運用方法を上手い形で計画・準備しないと、非常に難しいと思う。
理想に現場サイドの運用が付いていけないパターンはよくある話だから。
要は、問題は「導入するしない」ではなく、「どのように導入するか(どこまで導入するか)」だ。

「どのように導入するか」については、本番環境に近い状態で検証して問題点を洗い出し、「デジタル教科書」前提の教育カリキュラムを構築する必要があると考える。
つまり、「デジタル教科書」導入の課題とは、ハードでもソフトでもなく、まず「運用の構築」なのである。


その運用を踏まえた「本当に必要な実証実験」については、この記事に分かりやすく書かれている。

デジタル教科書導入に必要な実証実験 - 辻 元
“本当に必要な実証実験とは、生徒用デジタル教科書の試作品を用いた、通年の授業案を作り、同じカリキュラムを紙の教科書を用いた対照群との成績の比較をする対照実験だ”


●将来的な目的ではなく、目先の目的設定をどうするか
「子どもたち一人一人の学習ニーズに柔軟に対応でき、学習履歴 の把握・共有等を可能とすること」が将来的な目的とはいえ、一足飛びにその大きな目的を前提としての「運用の構築」は無理がある。現状では、ノウハウも技術も何もかもが無さ過ぎるからだ。

よって、段階を踏んで、将来的な目的に近付いていくことが、現実的な進め方となるだろう。
では、「教育の情報化ビジョン」にある将来的な目的ではなく、目先の目的設定をどうするか。今、詰めが甘いのは、この「目先の目的設定」にあるのではないかと思う。


●「デジタル教科書」推進で本来説得すべき相手とは誰か
「デジタル教科書」は、向き不向きな内容やメリットデメリットは、海外の事例や国内の実験である程度知見は貯まってきていると思うのだが、結局現状ではコストが掛かり過ぎることが、最大の問題なんだろう。コスト制約が大きい以上、ここで「目的設定」「目標効果」が曖昧だと、間違いなく上手くいかない。

「デジタル教科書」の推進は、導入機器とか導入手法とか以前に、「目先の目的設定」「目指すべき効果(メリット)」を明確化して、ある程度合意を得ないと話は一向に進まないんじゃないかね。
子どもの親なら誰でも分かるメリットとは何ですか?」と。
理解が必要な相手は、子どもの親なんだから。

特に、子どもの親側に負担を求めるのなら、それこそ負担するに見合うだけのデジタル教科書のメリットを子どもの親に提示し理解を得なければ、何も進められないと思う。メリットについてはなんとなーく曖昧にイメージはしていても、明確に言語化できている人はほとんどいないんじゃないかな。


●そもそも子どもの親って、「デジタル教科書」を必要としているのか
下記の韓国の事例では、「デジタル教科書」による「学力向上効果」はあまり見られない、という結果になっており、解決すべき課題も多い。
結局、「莫大なコストが掛かる」にも関わらず、子どもの親から「大してニーズはなく」、今のところ「学力向上効果もあまり見られない」のが現状だ。

韓国の情報教育の現況と課題(27〜38ページ)(PDFファイル)
→5. デジタル教科書開発とモデル学校の現況(33〜35ページ)に、実証実験の結果についての記載がある。


●私の結論
という風に、文科省の「教育の情報化ビジョン」の目的設定から、「デジタル教科書」導入での検討課題、段階的な導入の進め方、目先の目的設定、そもそも誰が必要としているのか、と遡って考えたり調べたりしてみると、現状で「デジタル教科書」を推進すべき理由が無くなってしまった。あれ?
推進するためには、○○がまず必要、という結論を出すつもりだったのだが……。長いだけで、流れが微妙な記事になってしまったではないか。


なので、結論としては、「デジタル教科書」については、現状は「推進段階」ではなく、何に使えそうかを「模索する段階」でしかない、のだと考える。

つまり、「模索するための長期的な実証実験」には賛成だが、「全面的な導入」には現状では反対。
コストが掛かり過ぎる上に、長期的な実証実験を踏まえたメリットが全く見えず、今のところ誰も必要としていない、と三拍子揃っちゃっているから。

一言で言うならば、「子どもの親なら誰でも分かる何万円も負担するだけのメリットとは何ですか?」に答えられるようになるまでは、「全面的な導入」には反対。






このページのトップヘ